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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)897号 判決 1966年11月18日

大阪府中小企業信用保証協会

理由

一、一審原告が訴外旭金属工業株式会社の委託に基づき、訴外会社が昭和二五年一二月一五日訴外大阪銀行から金一五〇万円を、弁済期昭和二六年一二月一四日の約束で借り受けるについて保証するとともに、訴外会社との間に右借受日から弁済期までは日歩八厘二毛、弁済期後代位弁済までは日歩二銭の保証料の支払いを、また一審原告が代位弁済した場合は求償債権額に対し、代位弁済の翌日から完済まで日歩一〇銭の損害金の支払いを受けることを約したことは当事者間に争いがない。

そして《証拠》によると、一審原告は昭和二七年三月二六日訴外会社のため、訴外銀行に対する借受金元金残額金七五万円と延滞利息金八万八、〇六四円を弁済したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると一審原告は訴外会社に対し次のような債権を有することになる。

《省略》(債権額認定部分)

二、一審原告は、訴外会社が右委託に基づき一審原告に対し負担することあるべき求償債務につき、一審被告坂田が連帯保証したと主張するのでこの点について判断する。坂田忠七の署名押印が真正なものであることについて当事者間に争いがないから、坂田に関する部分は真正に成立したものと推定すべき甲第一号証によると、同人は訴外会社が右委託に基づき一審原告に対し将来負担することあるべき債務につき連帯保証する旨記載した昭和二五年一二月一五日付連帯保証書の連帯保証人欄に署名捺印していることが認められるから、右保証をしたものと認めるのが相当である。坂田忠七本人尋問のうちには、連帯保証をするつもりで署名捺印したものでないという部分があるけれども、右甲第一号証は、前半は保証委託契約書と題し、保証委託者が信用保証協会に宛て、金融機関からの借入金について保証を委託するとともに、保証料、過滞金、損害金等を支払う旨が記載され、後半は連帯保証書と題して、協会が右債務の代位弁済をしたときは、債務者と連帯して一切の債務を弁済することを確約する旨が記載されており、しかもこれらの記載はいずれも不動文字で印刷されているのであるから、坂田本人の右供述をたやすく信用し、前記推定を覆えすことはできない。

同被告はさらに、右連帯保証は要素の錯誤により無効であり、仮にそうでないとしても詐欺によるものであるから取り消したというが、右主張に副うところのある同被告本人尋問の結果は信用することができず、他に右事実を認めるに足る証拠はないから、右抗弁は採用することができないものである。

そうすると、一審被告坂田に対し、右保証契約に基づき、代位弁済金八三万八、〇六四円とこれに対する代位弁済の翌日たる昭和二七年三月二七日から完済まで、約定の範囲内で日歩五銭の損害金および未払保証料金三万五、五四〇円とこれに対する訴状送達の翌日たる昭和三〇年三月五日から完済まで、民法所定年五分の損害金を支払うよう求める一審原告の請求は正当である。

三、《証拠》によると、昭和二六年一〇月頃訴外会社は経理が極度に悪化したため取引先である一審被告ら三名に援助を懇請した結果、四者間で同月一七日次のとおり契約書を作成し(以下本件契約ともいう)、訴外会社代表者峯松重幸は右契約書を一審原告に提出していることを認めることができる。

(1)訴外会社は一審被告桂商店には金六〇万円、同久保田には金一四四万円、同坂田には金四五万円の債務を負担していることを認め、一審被告桂商店、同久保田に対しては昭和三一年一〇月一六日までに右債務を完済すること

(2)訴外会社は一審被告坂田に対し負担する右債務の弁済に充てるため(代物弁済)、本件建物の所有権を一審被告坂田に移転し、所有権移転登記手続をすること

(3)訴外会社は一審被告桂商店に対する右債務の担保(譲渡担保)として、その所有にかかるクリプトル電気炉以下二七点の動産類の所有権を譲渡すること

(4)訴外会社が昭和三一年一〇月一六日までに久保田に対し金一四四万円を完済し、かつ坂田に対し金四五万円を提供して本件建物の買戻しを要求したときは、坂田は直ちに本件建物を訴外会社に譲渡し、所有権移転登記手続をすること、坂田は右期間内は右建物を訴外会社に無断で第三者に譲渡することはできないこと

(5)桂商店は昭和三一年一〇月一六日までに訴外会社から金六〇万円の弁済があつたときは、無償で前記動産類の所有権を訴外会社に移転すること

(6)昭和三一年一〇月一六日まで、訴外会社に対し、坂田は本件建物を、桂商店は右動産類を、それぞれ賃料月金一、〇〇〇円で賃貸すること

(7)訴外会社が訴外大阪銀行に対し前記借入金を完済することができず、一審原告が代位弁済したため、同原告に対し求償債務を負担するに至つた場合、久保田、桂商店はそのうち金七五万円について連帯して保証の責に任ずること、右の場合、坂田は一審原告の要求に応じ、訴外会社が一審原告に対して負担する金七五万円の債務の履行を担保するため、本件建物に一番抵当権を設定することを承認すること

以上のとおり認めることができる。

一審原告は、これによつて、一審被告らと一審原告の間に、連帯保証契約、抵当権設定契約が成立したと主張するが、証人米沢保の証言のうち、一審被告桂商店代表者、同久保田、同坂田が訴外会社の代表者とともに一審原告方に右契約書を持参し、右契約書どおり連帯保証ないし抵当権設定の申込みをし、一審原告がこれを承諾したという部分は、同人が当時当該係の担当でなかつたことからみても容易に信用することができず、また右契約書を一審原告宛持参した峯松が、一審被告らの授権により代理人として直接一審原告と右のような契約をしたと認めるに足る証拠もないから、一審原告の右主張は採用することができない。

次に一審原告は、右契約は訴外会社を要約者、一審被告らを諾約者、一審原告を受益者とする第三者のための契約であると主張するので考えるに、前掲各証拠によれば、訴外会社としては再建のため、一審被告らに対し債務弁済の猶予を求め、その担保あるいは代物弁済として本件建物および動産類一切の所有権を一審被告らに移転したものであるから、一審原告に対する債務について何か担保を提供するのでなければ詐害行為となるおそれもあり、右契約に立ち会つた訴外会社の荻矢顧問弁護士からもその旨の発言があつたこと、そこで訴外会社や一審被告らとしても、この点について一審原告の了解を得ておく必要があつたのであつて、峯松が右契約書を一審原告に持参して、右建物および動産の譲渡について一審原告の了解を求め、一審原告の係員は、一審被告らのような立派な問屋が保証してくれるならば結構だといつて右譲渡に了解を与えていることを認めることができる。そうだとすると右契約に、前記のような連帯保証および抵当権設定の各条項を挿入したのは、一審原告に対し、訴外会社が本件建物および動産類を他に譲渡する代りに、これに代る担保を得させることにあつたと認められるのであるから、右契約が訴外会社と一審被告らとの間の債権契約であるにすぎないというのでは右の目的を達することができないわけである。このことと、右契約の文面は前記のとおりであつて、一審原告に対し直接権利を取得させる趣旨が示されていることを考えれば、右契約は一審原告を受益者とする第三者のための契約であると解する外はない。

そして一審原告がその後右被告らに債務の履行を請求し、昭和二七年一一月中一審被告久保田および同桂商店に対し動産仮差押と電話加入権の仮差押をし、同坂田に対し仮登記仮処分により昭和二七年一二月二日本件建物につき抵当権設定仮登記(成立に争いのない甲第五号証によると前記契約に基づく訴外会社から坂田への所有権移転登記はすでに昭和二六年一〇月一八日経由されている)をしたことは一審被告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなすべく、右事実によれば一審原告は一審被告らに対し、前記契約に基づく権利を行使し右第三者として受益の意思表示をしたものと解することができる。もつとも右甲第五号証によると右仮登記は、登記原因として昭和二七年一〇月一七日契約と記載されており、前記契約成立の日付と相違するが、弁論の全趣旨によれば右仮登記は前記契約に基づくものであると認められるのであつて、原因たる契約月日が若干相違することは右仮登記を無効ならしめるものではないとともに、そのことは一審原告が暗に受益の意思表示をしたと認めることに何ら支障を来さない。

四、《省略》(一審被告久保田、同桂商店の抗弁排斥部分)

五、《省略》

六、《省略》(一審被告坂田に対する立替保険料請求排斥部分)

七、以上のとおりであつて、一審原告の本請求のうち、一審被告坂田に対し立替保険料の支払いを求める部分は失当であるが、その余はすべて正当であり、認容すべきものである。

よつて一審原告の控訴に基づき、原判決を一部取り消し、一部変更し、一審被告坂田の控訴を棄却

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